大阪地方裁判所 平成3年(ワ)3845号 判決 1992年2月27日
兵庫県尼崎市浜二丁目五番二六号
原告(反訴被告)
株式会社西友
右代表者代表取締役
更家輝男
右訴訟代理人弁護士
松田繁三
右輔佐人弁理士
岡田全啓
大阪市阿倍野区松崎町二丁目六番四三号
被告(反訴原告)
セキセイ株式会社
右代表者代表取締役
西川雅夫
右訴訟代理人弁護士
阪口徳雄
右輔佐人弁理士
坂上好博
主文
一 原告(反訴被告)の請求をいずれも棄却する。
二 被告(反訴原告)の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを三〇分し、その一を被告(反訴原告)の負担、その余を原告(反訴被告)の負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 本訴
1 被告(反訴原告)は別紙「イ号物件目録」記載の台紙帳を製造、販売してはならない。
2 被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し金四二五〇万円及びこれに対する平成元年一二月二六日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴
1 原告(反訴被告)は被告(反訴原告)の取引先に対し、別紙「イ号物件目録」記載の台紙帳の製造・販売が原告(反訴被告)の有する別紙「実用新案権目録」記載の実用新案権の侵害になる旨の警告をして、被告(反訴原告)の信用を毀損し、営業を妨害してはならない。
2 原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し金二〇〇万円及びこれに対する平成三年五月二八日(反訴状送達日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 原告(反訴被告。以下単に「原告」という)は、別紙「実用新案権目録」記載の実用新案権(以下「本件権利」といい、その考案を「本件考案」という)を有する(争いがない)。
二 本件考案の構成要件(甲一)
本件考案の構成要件は次のとおりである。
(1) 次の部材から構成される台紙帳
(2) 表紙部及び背表紙部を有する表紙体
(3) 各々が綴じ付け側縁部間をその厚さ方向に所定の厚紙の厚さ相当の間隔を隔てて配置された複数枚の台紙
(4) その台紙の各々の上記綴じ付け側縁部近傍において上記間隔を保つように各台紙の相互間に介在すると共に上記複数枚の台紙の綴じ付け側縁部の端面を上記背表紙部の内側に結合している熱溶融性の接着剤
三 本件考案の作用効果(争いがない)
本件考案は右構成を取ることにより次のとおりの作用効果を奏する。
1 固化した接着剤が台紙の綴じ付け作用と共に、スペーサとして作用するよう構成されており、これによって格別に綴じ金具やスペーサを必要とせず、製本作業の手間が大幅に簡略化されて、安価な台紙帳を提供できる(公報2欄17~22行目)。
2 特に、熱溶融性の接着剤を用いたことにより、接着剤部分が肉の厚い状態となっても固化のためには単に冷却すればよいので、簡単に短時間で接着が完了できる(公報2欄23~26行目)。
3 更に、固化による体積変化が殆どないために、固化した接着剤に確実にスペーサとしての作用を生じさせることができる(公報2欄26~3欄1行目)。
四 被告(反訴原告)の行為と原告との競業(争いがない)
被告(反訴原告。以下単に「被告」という。)は、別紙「イ号物件目録」記載の台紙帳(以下「イ号物件」という。)を、業として製造販売している。
原告はイ号物件と同種の台紙帳を製造販売し、市場において競合している。
五 本件考案とイ号物件との対比(争いがない)
イ号物件も、表紙部及び背表紙部を有する表紙体と、各々が綴じ付け側縁部間をその厚さ方向に所定の厚紙の厚さ相当の間隔を隔てて配置された複数枚の台紙とから構成され、右複数枚の台紙の綴じ付け側縁部の端面を上記背表紙部の内側に結合している熱溶融性の接着剤とからなる台紙帳であり、本件考案の構成要件のうち、争点の(4)を除き、その余の構成要件を具備している。
六 原告又は本件権利の旧所有者仲谷将太は、別紙「文書一覧表」記載<1>、<4>、<5>、<8>、<11>及び<13>の警告文書(以下、順次「警告文書<1>」、「警告文書<4>」等という)を発送した(争いがない)。
七 各請求の概要
1(本訴) イ号物件が本件考案の技術的範囲に属することを理由に、被告に対しイ号物件の製造販売の差止と昭和六三年七月八日(出願公告日)から平成元年一一月末までに原告に生じた損害四二五〇万円を請求。
2(反訴) 原告が被告及び被告の取引先に対し前記警告文書を発送した行為が、不正競争防止法一条一項六号所定の「競争関係ニアル他人ノ営業上ノ信用ヲ害スル虚偽ノ事実ヲ陳述…スル行為」に当たることを理由に、原告に対し、その差止と、それにより被告に生じた損害(取引先への説明・弁解のための費用、信用毀損による損害、反訴のための弁護士費用の合計)二〇〇万円を請求。
八 争点
1 本訴関係
(一) イ号物件が本件考案の構成要件(4)を充足するか否か。
(二) 前項が肯定された場合、原告に生じた損害金額
2 反訴関係
(一) 原告の警告文書発送行為が「競争関係ニアル他人ノ営業上ノ信用ヲ害スル虚偽ノ事実ヲ陳述…スル行為」に当たるか否か。
(二) 前項が肯定された場合、被告に生じた損害金額
第三 主な争点に関する当事者の主張
一 イ号物件が本件考案の構成要件(4)を充足するか否かについて
1 原告の主張
(一) 実用新案法における考案は、物品の形状、構造又は組合せにかかる考案をいうのであって、製造方法は考案の構成たり得ないものであるから、ある物品が登録実用新案にかかる考案の技術的範囲に属するか否かの判断に当たっては、製造方法の相違を考慮に入れることは許されない(最判昭和五六年六月三〇日民集三五巻四号八四八頁)。イ号物件が本件考案の構成要件(4)を充足するか否かの点についても、熱溶融性の接着剤が、各台紙の相互間に、その台紙の各々の綴じ付け側縁部近傍において厚紙の厚さ相当の間隔を保つように介在しているかどうかに尽きるのであって、右の形状に至るまでの製造方法についての相違は一切問題にすべきではない。
(二) イ号物件において、台紙104の間に130部材(B接着剤)と105部材(A接着剤)が相互に接着した状態で存在していることは明らかである。
被告の主張によると、イ号物件の105部材はヒロダイン工業株式会社製のヒロダイン3728を、130部材は同社製のヒロダイン4907を使用しているということである。同社製の商品名「ヒロダイン」は、各品番に分かれるものの、ホットメルト(熱溶融性)型接着剤と総称され(甲一八)、品番3728と4907の熱溶融性接着剤の主成分は、いずれもエチレン酢酸ビニル共重合物(略称EVA)であり同一である(甲一七)。右両者の軟化点はいずれも摂氏一〇五度であるから、イ号物件の製造に際して、軟化点よりはるかに高い温度である摂氏一六〇~一八〇度で溶融している105部材を台紙の端面側から塗布接着するとき、その溶融状態の熱
(摂氏一六〇~一八〇度)によりこれに接する130部材の下端部分は容易に溶融し、その結果互いに溶け合って強く接着し合い、両者が一体となる。ヒロダイン4907の性質からすれば、130部材は単独で台紙紙面と接着し、かつ105部材の熱により再溶融・再接着するという熱溶融性接着剤固有の働きをするものであり、他のものに置き換えることのできない接着機能を有するものである。130部材(B接着剤)と105部材(A接着剤)は、いずれも本件実用新案登録請求の範囲にいう「熱溶融性の接着剤」に該当することは明らかである。イ号物件は、台紙群と背表紙とを接着する熱溶融性接着剤を二度に分けて塗布したにすぎない。
なお、仮に被告主張のように熱溶融性接着剤が台紙相互間を接着している必要があるとしても、イ号物件において、溶融した130部材と隣接する台紙とが接着していることは別紙「原告主張図面」記載のとおりである。
(三) 以上のとおり、イ号物件の形状・構造は、共にほぼ同質で一体となった熱溶融性接着剤(130、105)が厚紙相当の間隔を保つように各台紙の相互間に介在すると共に、台紙の綴じ付け側縁部の端面を背表紙の内側に結合しているから、本件考案の構成要件(4)の構成と同一であることは否定しようがない。
また、その作用効果の面からみても、もし130部材が105部材と結合していなければ、台紙帳を見開きのために曲げたときの強度が絶対的に不足し、ボール紙をスペーサとして挟みビス等の綴じ金具で固定するという従来技術(公報参照)と同様、別途綴じ金具を必要とすることになるが、イ号物件は、130部材の下端部が105部材と緊密に結合することによって、両接着剤を一体とさせて背表紙との接着強度を十分に確保し、これによってスペーサとしての強度を保持して綴じ金具などがなくても「介在」の作用を果たせるようにしているのであるから、本件考案と同一である。
(四) 被告は、実用新案登録請求の範囲にいう「介在」の意義に関し、熱溶融性接着剤がその隣接する台紙相互を接着している必要がある旨主張するが、右主張は理由がない。何故ならば、右「介在」の目的は、熱溶融性接着剤に厚紙の厚さ相当の間隔を維持させることであって、このために、右接着剤が隣接する台紙相互を接着する必要はなく、隣接する台紙と接着していなくても、台紙の綴じ付け側縁部近傍に接着剤が入り込あば、台紙帳が見開かれて各台紙が横方向に引っ張られたときに、その接着剤が支えの役割を果たして台紙の強度を保持し、台紙間の間隔を維持する作用を完遂することができるからである。
なお、仮に被告主張のように105部材のみが熱溶融性接着剤と考えても、熱溶融性接着剤である105部材(A接着剤)が台紙104の間に、それらの端縁から少なくとも〇・三~〇・六ミリメートル程度入り込んでいる(検甲一ないし四、八ないし一四、検乙五ないし八)。各台紙の厚さは約〇・一六ミリメートル程度であるから、右入り込みの程度は台紙の厚さの約二ないし四倍になり、台紙相互間の間隔を維持しかつ台紙を背表紙に結合する保持力としては十分なものである。このA接着剤の接着力は強く、右の程度の台紙間への入り込みと、台紙端面と背表紙内側との接着結合があれば、安定した介在・結合の両作用を果たすことができると考えられる。したがって、105部材(A接着剤)は、単独でも台紙相互間の間隔を維持する役割を果たしているといわねばならない。
(五) 被告主張の公知技術について
公知技術と本件考案及びイ号物件との関係に関する被告の主張は誤りであり、その関係は別紙「原告による訂正説明図」に記載のとおりである。
乙第一〇、第一八号証は、簡易製本技術に関するもので、下部より接着剤を加熱して背表紙を接着するものであって、接着剤を紙葉間に入れて製本する考えは基本的にはない。乙第一七号証のスペーサは熱溶融性のものではないから、かかるスペーサを付着した台紙を背表紙に合わせて下から熱溶融性接着剤により接着しても、右スペーサは熱溶融性接着剤の熱によって溶融することはなく、背表紙側端面は原型を保ったまま背表紙に接着される。また、同号証の考案は、平綴じ製本(通常綴代といわれる部分を側面から釘金で綴じる簡便な綴じ方)のみを想定しての創作であり、本件考案の無線綴じ製本を全く考慮していないことは明らかである。
2 被告の主張
(一) 熱溶融性の接着剤の「介在」の態様について
(1) 出願当時の公知技術との関係 すなわち、その関係は別紙「被告説明図」記載のとおりであって、本件考案とイ号物件は、両者とも乙第一〇号証の公知技術を改良したものであるが、その改良手段において相違があり、本件考案は乙第一〇号証の改良である乙第一八号証の設計変更であるのに対し、イ号物件は乙第一七号証の公知技術の台紙を乙第一〇号証の公知技術の方法で製本したものである。
(2) 考案の詳細な説明及び図面記載の各実施例 特に、考案の詳細な説明中の「すなわち、台紙4の各々の綴じ付け側縁部の間に1.5~2mmくらい接着剤5が入り込んで前記間隔を保った状態で台紙4の相互間を接着していると共にその台紙4の各々を背表紙3の内側に接着結合しているのである。」との記載(公報3欄20~24行目)
(3) 出願から登録査定に至る経過 すなわち、 ア 本件実用新案登録出願当初の実用新案登録請求の範囲に記載された考案は、右説明図の原考案<2>であったが、前後二回にわたる拒絶理由通知において乙第六、第一〇号証の公知技術が引用されたことから、出願人は、出願にかかる考案を現在の実用新案登録請求の範囲のものに限定
(すなわち、台紙間に熱溶融性接着剤が介在すること、台紙間の間隔を厚紙相当の間隔とすることに限定)した(乙第一〇号証の第6図には、極く僅かではあるが台紙間に熱溶融性接着剤が介在した構成が示されているから、これとの対比に基づいて右の限定がされたことは明白である)。 イ 出願人が、第一回拒絶理由通知(乙三)に対して特許庁に提出した意見書(乙八)において、引例1(乙四)と本件考案との相違は、引例1の接着剤2にはスペーサとしての機能がないのに対し、本件考案における台紙の間隔は接着剤5により維持され、それがスペーサの役割をしていると共に接着剤作用もしていることに特徴がある旨、引例3(乙六)におけるその帳票間の結合は、図では第一次接着剤6が帳票間の間隔に介在しているようにみえるが、単に重ねた帳票間に浸透したものであって事実上間隙が存在していないのに対し、本件考案は接着剤が台紙間のスペーサの役割を果たしている点が新規な構成である旨主張し、第二回拒絶理由通知(乙九)に対して特許庁に提出した意見書(乙一二)において、引例(乙一〇)は各紙葉48の間には第6図のように各紙葉の厚さに相当するほどの間隙が存在する理由はなく、第6図に見られる状態は、強く挟圧されていないために溶融した接着剤が各紙葉48間に適度に浸透したことを説明するために誇張して描かれているのに対し、本件考案の接着剤は各台紙の相互間に台紙間の間隔を所定の厚紙の厚さ相当の間隔に維持するよう入り込んで介在していると共に各台紙の綴じ付け部端面を背表紙部の内側に接着結合している点に差異がある旨主張し、拒絶査定(乙一三)に対して請求した審判の審判請求理由補充書(乙一五)においても同旨の主張を繰り返し、その結果原拒絶査定の取消しと実用新案登録する旨の審決
(乙一六)を得た。
(4) 以上の諸事実を総合すると、本件考案の構成要件(4)における「熱溶融性の接着剤」の「介在」とは、
ア 各台紙の相互間に介在する熱溶融性の接着剤と、「背表紙と台紙とを接着する熱溶融性の接着剤とは、その材質が実質的に同一で、かつ、一体に形成されており、
イ 右熱溶融性の接着剤の台紙間への入り込みの程度は、各台紙間に適度に浸透した程度(乙第一〇号証の第6図や乙第一八号証の第8図の程度)を超えるものであり、
ウ 右熱溶融性の接着剤は、従来のスペーサの役割の厚紙の如き形で台紙間に食い込んだ形態であり、
エ 台紙間の間隔は厚紙の厚さ相当の間隔に配置されるようになっており、
オ かつ、熱溶融性の接着剤が各台紙相互を接着している、
という要件を全て具備しているものを指すと解すべきである。
なお、本件考案は、<1>台紙間隔を厚紙相当の間隔とすること、<2>接着剤を台紙間に深く浸入させることの二点において、乙第一〇号証の公知技術を改良したものであるが、この二点を改良した乙第一八号証の公知技術が既に存在していたのであって、これと本件考案とは、台紙相互間の間隔及び台紙間への接着剤の浸入度合いの点で微差があるとはいうものの、両者は実質的に同一であるから、本件実用新案登録には無効事由がある。
(二) イ号物件の綴じ付け部分の構成
イ号物件の台紙の綴じ付け側縁部近傍の構成は別紙
「被告主張図面(一)」及び「被告主張図面(二)」記載のとおりであり、背表紙部に複数の台紙104を積層した状態で熱溶融性の接着剤105(ヒロダイン工業株式会社製の無線綴用ホットメルト接着剤:商品名:ヒロダイン3728)により接着している。他方、各台紙104の一方の面の綴じ付け端縁には、同図面(二)に示すように、右熱溶融性の接着剤とは異なる材質(右会社製の紙用コーティング剤:商品名:ヒロダイン4907)からなる一定幅のスペーサ130が結合一体化され、このスペーサ結合部107は、台紙104の綴じ付け端縁の全域にわたって配設されている。スペーサ結合部107の端面106は、同図面第3図に示すように、台紙104の平面に対してほぼ直角な端面である。
台紙群は、各台紙104の綴じ付け端縁が一致し、かつスペーサ結合部107が同一方向に向くように密に重ね合わされて、その綴じ付け端縁群の端面と背表紙部103とが熱溶融性の接着剤105によって接着されている。したがって、台紙群の綴じ付け側の端面は、台紙端面とスペーサ端面とが交互に密に連続した端面となり、この端面と背表紙内面との間にのみ接着剤105が介在する構成である。
なお、この端面には、同図面(一)に示すように、ほぼ〇・二三ミリメートルから〇・三八ミリメートルの範囲で窪みがあり、この窪み部分に熱溶融性の接着剤105が入り込んでいることは原告主張のとおりであるが、右の数値は、台紙間に断面直角三角形状に入り込んだ熱溶融性の接着剤の垂線の高さ寸法であり、台紙間全域において右接着剤が一様に右のように入り込んでいるのではない。
また、台紙104に対してスペーサ130が同一方向に向くようにして複数の台紙が重ね合わされていることから、スペーサの表面が隣接する台紙の表面に非接着状態で対接して、各台紙間にはスペーサ130の厚さに相当する一定幅の間隔を生じさせている。
(三) イ号物件は本件考案の構成要件(4)を具備していない。
(1) イ号物件においては、各台紙の相互間に介在する接着剤と、背表紙と台紙とを接着する接着剤とは、その材質が実質的に同一ではないし、それと一体に形成されてはいない。イ号物件の130部材も加熱溶融条件下で接着性能を有することは原告主張のとおりであるが、これは熱溶融性の接着剤である105部材と同一のものでないことは、原告提出の甲第六、第七号証の試験結果からも明らかである。すなわち、これら試験結果によれば、130部材と105部材とでは、両方の試験において全く相違する特性を示している。特に、動的弾性試験では、105部材の場合、摂氏六〇度においてその張力が急激に低下(溶融)しているが、130部材の場合には、摂氏九〇度においてその張力が急激に低下(溶融)している。つまり、融点において約三〇度の差がある。イ号物件の130部材は、その融点が高くて台紙帳製作に採用される台紙接着用の接着剤としては、実用的でないことが明らかである。
(2) イ号物件においては、熱溶融性の接着剤105の台紙間への入り込みの程度は、台紙間に適度に浸透した程度(乙第一〇号証の第6図や乙第一八号証の第8図の程度)を超えるものではない。それは乙第一〇号証の第6図や乙第一八号証の第8図の程度のものである。原告は、イ号物件の台紙間に極く僅か入り込んだ接着剤105が本件考案における「各台紙の相互間に介在する・・・接着剤」に該当する旨主張するが、右主張は、前記のとおり、出願人が審査・審判において、その程度のものは引用例との関係で本件考案における「各台紙の相互間に介在する・・・接着剤」に入らないと明言したところに反するものであり、禁反言の原則に反し許されない。
(3) イ号物件においては、熱溶融性の接着剤105は従来のスペーサの役割の厚紙の如き形で台紙間に食い込んだ形態ではない。
(4) イ号物件においては、熱溶融性の接着剤105は台紙間の間隔厚紙の厚さ相当の間隔に配置されていない。
(5) イ号物件においては、熱溶融性の接着剤105は各台紙相互を接着していない。
(四) イ号物件の130部材は、本件実用新案登録請求の範囲にいう「熱溶融性の接着剤」ではない。一般に接着剤とは、これに接触する部材に接着結合する機能を有するものであり、願書添付の明細書において当該接着剤についての特別な機能が記載されていない限り、考案の構成要件となる接着剤は、一般的な意味での接着剤と認定されなければならない。たとえ組成的には接着剤であっても、それが接着機能を発揮しない態様で使用されているものは、考案の構成要件としての接着剤ではない。隣接する台紙と接着しない限り、組成的には接着剤に属するもので形成されたスペーサも、厚紙で製作されたスペーサと同じスペーサであって、接着剤ではない。本件実用新案登録出願願書添付の明細書には、接着剤についての特別な記載はないから、実用新案登録請求の範囲にいう「各台紙相互間に介在する・・・熱溶融性の接着剤」も一般的な意味での接着剤であり、接着剤とは接着機能を発揮するものでなければならない。構成要件として記載された「各台紙相互間に介在する・・・熱溶融性の接着剤」に、台紙相互を接着しないものをも含めるためには、明細書においてその旨記載するか、これを示唆する記載が必要である。
なお、原告提出の検甲第六号証は、その説明書及び図面から明らかなように、加熱温度一二〇度を維持し、加圧加熱時間五秒の条件で溶着したものであるが、イ号物件の製造においては、右条件とは異なり、熱溶融性の接着剤は、一旦台紙群の端面に接着されると、この接着剤が空冷され、かつ接触部に熱移動するから、短時間で常温に復帰するし、また、加圧はしていないから、同号証は原告主張事実を立証する証拠にはならない。
(五) 技術思想の相違
(1) 台紙帳においては、各台紙が背表紙に確実に接着されている必要があるが、この接着強度を確保するための思想において、本件考案とイ号物件とでは、本質的に相違する。すなわち、本件考案は、台紙の綴じ付け側縁部を包むように接着剤を配設して、台紙の接着面積を広くし、これにより十分な接着強度を確保するものである。これに対し、イ号物件は、台紙の綴じ付け側縁部に予めスペーサを添着することによりこの端縁の厚さを厚くし、これにより台紙の接着面積を広くして接着強度を確保するものである。このように、本件考案とイ号物件とでは、接着面積を広くする手法が相違する。
(2) また、本件考案とイ号物件とでは、スペーサ機能を付与する技術思想においても差異がある。すなわち、本件考案では台紙相互間に介在して、両方の台紙に接着する熱溶融性の接着剤によってスペーサ機能を発揮させているが、イ号物件では、予め、台紙の綴じ付け側縁部を背表紙の内側に結合している熱溶融性の接着剤とは別のスペーサ部材を台紙に取り付けるものであり、本件考案の出願前に公知であった手法を採用している。
二 被告のイ号物件販売により原告に生じた損害について
(原告の主張)
原告は本件考案の実施品である台紙帳を製造販売しているが、被告は、本件実用新案登録出願にかかる出願公告がされた昭和六三年七月八日以降、右出願公告に基づく権利ないし本件実用新案権を侵害することを知りながら又は過失により知らないで、イ号物件を製造販売しており、平成元年一一月末までの間に、製造販売したイ号物件の数量は一か月一〇万セット(一セットは五冊組)の割合で合計一七〇万セット、その販売価格は一セット当たり五〇〇円、その販売利益は一セット当たり二五円で、右期間に合計四二五〇万円の利益を得た。右利益額は、被告の侵害行為によって原告が被った損害額と推定される。
三 原告の警告文書発送行為が「競争関係ニアル他人ノ営業上ノ信用ヲ害スル虚偽ノ事実ヲ陳述…スル行為」に当たるか否かについて
1 被告の主張
イ号物件は本件考案の技術的範囲に属さず、イ号物件を製造販売する行為は本件権利の侵害にならないにもかかわらず、原告ないし旧権利者仲谷将太において被告がイ号物件を製造販売することにより本件権利を侵害している旨を記載した警告書<1>、<4>、<5>、<8>、<11>及び<13>を被告及び被告の取引先に送付した行為は、不正競争防止法一条一項六号所定の「競争関係ニアル他人ノ営業上ノ信用ヲ害スル虚偽ノ事実ヲ陳述…スル行為」の陳述に当たり、これにより被告は信用を毀損され営業を妨害された。
2 原告の主張
警告文書<1>及び<8>は、被告に対し警告したものであり、被告の信用を毀損し営業を妨害した行為ということはできない。また、日本コダック株式会社は独自ブランドで本件考案の技術的範囲に属するポケットアルバムELサイズ五冊セット(商品名KA-801P)を、コニカカラー機材株式会社は独自ブランドで本件考案の技術的範囲に属するポケットアルバムELサイズ五冊セット(商品名KPA-001Lないし006L)を、いずれも販売しており、被告ないし旧権利者仲谷将太がこれらの会社に対し発送した警告文書<4>、<5>、<11>及び<13>は、被告の責任とは別途に、これら会社固有の責任を追求して警告したものであって、内容的にも被告の名称も記載しておらず、ましてや被告に関する誹謗中傷は一切していないから、被告とは無関係である。
第四 争点に対する判断
一 本訴関係
1 イ号物件が本件考案の構成要件(4)を充足するか否かについて
(一) 本件考案の構成要件(4)について
(1) 明細書及び図面の記載
実用新案登録請求の範囲には、「各台紙の相互間に介在すると共に・・・台紙の綴じ付け側縁部の端面を上記背表紙部の内側に結合している熱溶融性の接着剤」と記載されているが、この「介在すると共に・・・結合している熱溶融性の接着剤」という表現は、通常、「介在する」「と共に」(と同時にまた)・・・「結合している」「熱溶融性の接着剤」ということであり、同一の熱溶融性の接着剤が「介在」する役割と「結合」する役割を共通に(同時に)果たしているという意味である。考案の詳細な説明中にも、「固化した接着剤が台紙の綴じ付け作用と共に、スペーサとして作用するように構成されている」(公報2欄17~19行目)と同様に記載されている。また、実施例の説明としても、「接着剤5は、熱溶融性のもので、第3図に見られるように、台紙4の各々の綴じ付け側縁部間の間隔を保つと共に、台紙4の各々の綴じ付け側縁部の端面を背表紙部3の内側に結合しているものである。すなわち、台紙4の各々の綴じ付け側縁部の間に15~2mmくらい接着剤5が入り込んで前記間隔を保った状態で台紙4の相互間を接着していると共にその台紙4の各々を背表紙3の内側に接着結合しているのである。」、(公報3欄16~24行目)、「この状態で接着剤5は各台紙4の間に適切に入り込んでいる。そして再度前記と同様に接着剤塗布機のローラ9上を通すと第11図に示す状態となる。この段階では前回付着した接着剤5と寒冷紗14とが台紙間空隙の端面側を閉蓋した形となっているため、2度目に付着させた溶融接着剤15(接着剤5と同じ材質。)…寒冷紗14の目を通して接着剤5に対し融合した状態となる。」(公報5欄2~11行目)と記載されている。実施例を示す願書添付図面(公報3頁以下)には、すべて隣接の台紙相互を接着している熱溶融性の接着剤と、台紙を背表紙に接着している熱溶融性の接着剤とが不可分一体となっている状態が図示されている。
(2) 先行の主な公知技術
本件考案ないしイ号物件に近似の次の技術が、本件実用新案登録出願当時公然知られていた。
ア 熱溶融性の接着剤により多数紙葉の綴じ付け側縁部端面と背表紙内側を接着結合する、多数紙葉の綴じ込み装置(乙一〇公開実用新案公報)。そして、同公報の第6図には、明示の説明はないけれども、背表紙内側と接着結合された多数紙葉の綴じ付け側縁部端面近傍では、熱溶融性の接着剤が紙葉間に浸入し、接着結合を強固にしている状態が図示されている。
イ 台紙の片面綴代部に、従来使用されていた厚紙等のスペーサの代わりに、印刷手段を用いて合成樹脂等の化合物によりスペーサを形成貼着し、このスペーサを形成貼着した台紙を重合わせて製本する技術(乙一七公開特許公報)。
ウ 熱溶融性の接着剤により多数のシートの綴じ付け側縁部端面と背表紙内側を接着結合することにより多数シートを綴じる方法において、その接着結合を強固にするため、シートの綴じ付け側縁部端面が溶融状態の熱溶融性の接着剤と接触した時にシートを左右に振り動かし、シート綴じ付け側縁部端面近傍で熱溶融性の接着剤を各シート間に浸入させる方法(乙一八公開特許公報)。そして、同公報の第5~第8図には、背表紙内側と接着剤で結合される多数シートの綴じ付け側縁部端面近傍で、熱溶融性の接着剤をシート間に浸入させる方法及びその結果熱溶融性の接着剤がシート間に浸入し接着結合を強固にしている状態が図示されている。
(3) 出願から登録査定に至る経過
本件実用新案登録出願の出願人は、第一回拒絶理由通知(乙三)に対して特許庁に提出した意見書(乙八)において、引例1(乙四)と本件考案との相違は、引例1の「接着剤2にはスペーサとしての機能」がない(3頁2~3行目)のに対し、’「本願考案における台紙4の間隔は接着剤5の存在によって維持され、接着剤5がスペーサの役割をしていると共に接着作用もして」いることに特徴がある旨(3頁9~12行目)、引例3(乙六)における「その帳票間の結合は、図では第1次接着剤6が帳票間の間隔に介在しているように見えますが、単に重ねた帳票間に浸透したものであって事実上間隙が存在してい」ないのに対し(4頁8~11行目)、本件考案は「台紙の綴付側端縁部間には台紙間の必要な間隔が保たれるように接着剤が入り込んでいて、接着剤がスペーサの役割を果たしている」(5頁2~4行目)、「本願考案の台紙帳は熱溶融性接着剤を使用してそれを接着剤としてのみでなく台紙間のスペーサの役割を果たさせるようにした」(5頁9~11行目)点が新規な構成である旨主張し、第二回拒絶理由通知(乙九)に対して特許庁に提出した意見書(乙一二)において、引例(乙一〇)は「各紙葉48の間には第6図のように各紙葉の厚さに相当するほどの間隙が存在する理由はなく、…第6図に見られる状態は強く挟圧されていないために溶融した接着剤が各紙葉48間に適度に浸透したことを説明するために誇張して描かれている」(3頁13~18行目)のに対し、本件考案の接着剤は「各台紙の相互間に台紙間の間隔を所定の厚紙の厚さ相当の間隔に維持するように入り込んで介在していると共に各台紙の綴じ付け側縁部端面を背表紙部の内側に接着結合している点」に差異がある旨(2頁4~8行目)主張し、拒絶理由に記載の引例を根拠に拒絶査定(乙一三)された後、同拒絶査定を不服として請求した審判の審判請求理由補充書(乙一五)においても同旨の主張を繰り返し、その結果、原拒絶査定の取消しと登録する旨の審決(乙一六)を得た。
(4) 以上の諸事実を総合して考えると、本件実用新案登録請求の範囲にいう「その台紙の各々の上記綴じ付け側縁部近傍において上記間隔を保つように各台紙の相互間に介在すると共に上記複数枚の台紙の綴じ付け側縁部の端面を上記背表紙部の内側に結合している熱溶融性の接着剤」とは、
ア 各台紙の相互間に介在する熱溶融性の接着剤と、背表紙と台紙とを接着する熱溶融性の接着剤とは、その材質が実質的に同一で、かつ、それらは一体に形成されており、
イ 右熱溶融性の接着剤の台紙間への入り込みの程度は、従来台紙等を背表紙に強固に接着結合するために浸入させていた程度(乙第一〇号証の第6図や乙第一八号証の第8図の程度)を超えるもので、従来の厚紙等のスペーサの機能を代替する程度に台紙間に食い込んでおり、
ウ かつ、右熱溶融性の接着剤が各台紙相互を接着している、
ものと解すべきである。
(二) 本件考案の構成要件(4)とイ号物件
(1) イ号物件の台紙の綴じ付け側縁部近傍の断面形状における、熱溶融性の接着剤105部材の台紙間への入り込みの状態及び130部材との接着結合の状態は、製品により多少のばらつきがあるが、「原告主張図面」ないし「被告主張図面(一)」各記載の範囲内の程度であると認められる(検甲一~四、七~一四、検乙五~一〇、弁論の全趣旨)。そうすると、イ号物件における熱溶融性の接着剤105部材の台紙間への入り込みの程度は、従来台紙等を背表紙に強固に接着結合するために浸入させていた程度(乙第一〇号証の第6図や乙第一八号証の第8図の程度)を超えるものではなく、従来の厚紙等のスペーサの機能を代替する程度に台紙間に食い込んでいるものではないというべきである。
(2) 原告は、イ号物件の形状・構造は、共にほぼ同質で一体となった熱溶融性接着剤(130部材、105部材)が厚紙相当の間隔を保つように各台紙の相互間に介在すると共に、台紙の綴じ付け側縁部の端面を背表紙の内側に結合しているから、本件考案の構成要件(4)の構成と同一であることを否定しようがないと主張するが、乙第一七号証の先行技術に鑑みると、イ号物件における130部材は、右先行技術と同様に、従来スペーサとして使用されていた厚紙等の機能を代替するために使用されているものであって、台紙相互間及び台紙と背表紙を直接接着するために使用されているものではないから、本件実用新案登録請求の範囲にいう「熱溶融性の接着剤」と認めることはできず、右主張は採用できない。
また、本件実用新案登録請求の範囲にいう「熱溶融性の接着剤」は、前記のとおり、各台紙の相互間に介在するものと、背表紙と台紙とを接着するものの材質が実質的に同一で、かつ、各台紙相互を接着しているものと解すべきところ、イ号物件における130部材は、105部材とその材質において実質的に同一のものと認めることはできず(特に、主たる用途を異にする。甲六、七、一七、一八、乙二〇、検甲第一~四、八~一四、検乙五~八)、そのうえ、各台紙相互間を接着していないから、右「熱溶融性の接着剤」ということはできない。前記明細書及び図面の記載、出願当時における公知技術並びに出願から登録査定に至る経過に照らすと、たとえ組成的には接着剤に属するものであっても、それが接着機能を発揮しない態様で使用されている(各台紙相互間を接着していない)130部材は、厚紙又は熱溶融性でない接着剤等で作成されたスペーサと同様のスペーサであり、本件実用新案登録請求の範囲にいう「熱溶融性の接着剤」に該当しないというべきである。
(3) したがって、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属しないといわざるを得ない。
なお、抽象的理論は以上のとおりであるが、現実の実施品を比較してみたとき、台紙帳を閉じた状態において、これを横方向から見たとき、本件考案の実施品である原告製品の場合は、熱溶融性の接着剤による綴じ付け部分には台紙があるだけですっきりしているのに対し、イ号物件の場合は、熱溶融性の接着剤による綴じ付け部分には、考案の詳細な説明にいう従来製品同様130部材がスペーサとして存在していることが明瞭に目視されるし、また、台紙帳を開いたとき、本件考案の実施品である原告製品の場合は、熱溶融性の接着剤による綴じ付け部分まで大きく開くことができるのに対し、イ号物件の場合は、熱溶融性の接着剤による綴じ付け部分より先に固い130部材がスペーサとして存在しているため、通常この130部材の先端(背表紙と反対側)の所までしか開くことができず、無線綴じではなく、原告がいう平綴じ製本(ボール紙等をスペーサとして挟み、ビス等の綴り金具で固定する従来技術)のような感じになる等、130部材が従来製品のスペーサと同様に存在し、かつ、同様に作用していることが明確に認識できる(検甲五、検乙一~四)。
二 反訴関係
原告の警告文書発送行為が「競争関係ニアル他人ノ営業上ノ信用ヲ害スル虚偽ノ事実ヲ陳述…スル行為」に当たるか否かについて
警告文書<1>、<4>、<5>及び<8>を発送したのは、本件権利の前所有者仲谷将太であるから、特段の事情のない限り、原告が不法行為責任を負う理由はなく、また、原告が前所有者仲谷将太の右行為につき責任を負わねばならない特段の事情も認められない。
問題となるのは、原告が発送した警告文書<11>の二通(被告からイ号物件を仕入れてこれを自社の商品として各自の商標を付して販売している〔検甲二三~二五〕、日本コダック株式会社とコニカカラー機材株式会社に対するもの)及び警告文書<13>(同コニカカラー機材株式会社に対するもの)であるが、警告文書<11>には、本件権利を原告が譲り受けた旨、宛先会社(日本コダック株式会社又はコニカカラー機材株式会社)の販売するポケットアルバムは、本件訴訟において原告が主張しているのと同旨の理由で、本件権利を侵害するものと考える旨、宛先会社は早急に誠意ある対処をするよう改めて要求する旨、誠意ある対処がないときは法的手続を取らざるを得ないことが記載されており
(乙二六、二七)、警告文書<13>には、宛先会社コニカカラー機材株式会社の販売するポケットアルバムが本件権利を侵害するものと考えることは警告文書<5>記載のとおりである旨、同社が被告から対象のポケットアルバムを仕入れているとしても、同社の商標を付して販売している以上、同社の責任において誠意ある対処をしなければならない旨記載されている(乙二九の一)。
そこで考えるに、原告はイ号物件が本件考案の技術的範囲に入るものと信じ、本件権利を行使する意図で右警告文書を発送したものと認められる(乙二六、二七、二九の一)。しかし、原告の右判断は結果的には誤りであったことは前判示のとおりである。ところで、当裁判所は、公知技術及び出願から登録査定に至る経過等を参酌して、実用新案登録請求の範囲にいう「熱溶融性の接着剤」が、その材質及び介在の態様において、前判示のとおり限定されるものと解した結果、イ号物件が本件考案の技術的範囲に入らないとの結論に達し、この結論が正当であると確信するけれども、このように限定解釈しなければ、外形的にはイ号物件が本件考案の構成要件を全部充足し、本件考案の技術的範囲に入るように見えることは明らかであり(被告もその事実は認めている)、また、イ号物件が本件考案の技術的範囲に入ると判断することも十分可能であって、その技術的範囲に入ると考えるべきか、それから外れると判断すべきかは、いわゆる紙一重の差であり、本件権利の権利者となった原告において、イ号物件が本件考案の技術的範囲に入ると判断して、イ号物件を自社の商標を付して販売している前記宛先会社に対し、右警告文書を発送したとしても無理からぬところと認められるし、右警告文書の記載内容も、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属すると考える旨の原告の判断とイ号物件の販売行為が本件権利の侵害に該当する旨の前記宛先会社に対する原告の権利主張であることが明らかであって、現実にも、本件権利の前所有者仲谷将太からの同旨の警告文書を受領した前記宛先会社も、右警告文書を原告の判断に基づく原告の権利主張であることを正確に把握したうえで、イ号物件の販売は本件権利の侵害にならない旨の自己主張を回答している(乙二一の三、二二の二、二三の二、二四の二、二八、三〇)ことに鑑みると、右警告文書発送行為を違法とみることも、不正競争防止法一条一項六号所定の「競争関係ニアル他人ノ営業上ノ信用ヲ害スル虚偽ノ事実ヲ陳述…スル行為」に当たると考えることもできないというべきである(最判昭和六三年一月二六日民集四二巻一号一頁参照)。
三 結語
以上のとおりであるから、原告の本訴請求も、被告の反訴請求も、いずれもその余の点について判断するまでもなく、理由がない。
(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 長井浩一 裁判官 辻川靖夫)
実用新案権目録
一 考案の名称 台紙帳
二 出願日 昭和五五年五月九日
三 出願公告日 昭和六三年七月八日(実公昭六三-二五一七六)
四 設定登録日 平成元年四月二五日
五 登録番号 第一七六八二八〇号
六 実用新案登録請求の範囲
「表紙部及び背表紙部を有する表紙体と、各々が綴じ付け側縁部間をその厚さ方向に所定の厚紙の厚さ相当の間隔を隔てて配置された複数枚の台紙と、その台紙の各々の上記綴じ付け側縁部近傍において上記間隔を保つように各台紙の相互間に介在すると共に上記複数枚の台紙の綴じ付け側縁部の端面を上記背表紙部の内側に結合している熱溶融性の接着剤とからなる台紙帳。」
(別添実用新案公報参照)
イ号図面
<省略>
原告主張図面
<省略>
被告主張図面(一)
<省略>
被告主張図面(二)
<省略>
原告による訂正説明図
<省略>
被告説明図
<省略>
文書一覧表
年月日 発送人 発送先 文書の内容
<1> 平成元年五月九日 仲谷将太(旧権利者) 被告会社 イ号物件は発送人の権利を侵害する
<2> 平成元年五月一九日 被告会社 仲谷将太 回答猶予依頼
<3> 平成元年六月三日 被告会社 仲谷将太 イ号物件は発送人の権利を侵害しない
<4> 平成元年六月二三日 仲谷将太 日本コダック株式会社(被告の取引先) <1>イ号物件は原告の権利を侵害する<2>誠意ある対処を要求<3>なきときは法的手続きをとる
<5> 右同日 右同 コニカカラー機材株式会社(右同) 右同
<6> 平成元年七月三日 日本コダック株式会社 仲谷将太 六月三日付セキセイ株式会社の回答書と同じ理由でイ号物件は権利侵害ではない
<7> 平成元年七月七日 コニカカラー機材株式会社 仲谷将太 セキセイ株式会社との話し合いで解決されたい
<8> 平成元年八月二日 仲谷将太 被告会社 <1>イ号物件は発送人の権利を侵害する<2>被告会社の取引先(日本コダック及びコニカカラー機材)に対しての法的措置をほのめかす
<9> 平成元年九月一二日 被告会社 仲谷将太 <1>イ号物件が発送人の権利を侵害しないことを審査経過を参釈して詳細に検討し回答<2>取引先の行為についても被告会社が責任をもって回答する<3>取引先へ警告しないことを申し入れる
<10> 平成元年九月二七日 原告会社 被告会社 原告会社が仲谷将太から権利を譲り受けた
<11> 平成元年一〇月四日 原告会社 日本コダック株式会社(被告の取引先) <1>イ号物件は原告の権利を侵害する<2>誠意ある対処を要求<3>なきときは法的手続をとる
右同日 右同 コニカカラー機材株式会社(右同) 右同
<12> 平成元年一〇月三〇日 被告会社 原告会社 <1>被告会社の取引先への原告会社の行為は不正競争防止法の虚偽陳述行為に該当する。右行為の中止の要請<2>中止しない場合には損害賠償請求する<3>イ号物件は原告の権利を侵害しない
<13> 平成二年一二月六日 原告会社 コニカカラー機材株式会社(被告の取引先) <1>イ号物件は原告の権利を侵害する<2>貴社の販売にかかる製品(イ号物件)については、貴社が責任を持つべきである<2>イ号物件については大阪地裁において裁判が進行している<4>原告会社としては円満に解決する所存、回答依頼
<14> 平成二年一二月一三日 被告会社 原告会社 <1>コニカカラー機材(株)に対する平成二年一二月六日付の通知書に対して回答<2>イ号物件は被告会社の権利を侵害していない<3>訴訟継続中に取引先に対して右のような通知書を出すことは信義に反する<4>平成二年一二月六日付の通知書の撤回要求<5>右撤回が行われない場合には不正競争防止法による損害賠償を請求する
<15> 平成二年一二月二一日 コニカカラー機材株式会社 原告会社 セキセイ株式会社と貴社との話合いによる解決を依頼
<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告
<12>実用新案公報(Y2) 昭63-25176
<51>Int.Cl.4B 42 D 1/08 識別記号 庁内整理番号 6976-2C <24><44>公告 昭和63年(1988)7月8日
<54>考案の名称 台紙帳
審判 昭59-6820 <21>実願 昭55-63935 <65>公開 昭56-163561
<22>出願 昭55(1980)5月9日 <43>昭56(1981)12月4日
<72>考案者 仲谷將太 和歌山県和歌山市島51-2 県住1-14
<71>出願人 仲谷將太 和歌山県和歌山市島51-2 県住1-14
<74>代理人 弁理士 清水哲 外2名
審判の合議体 審判長 中山昭雄 審判官 仁木弘明 審判官 江幡敏夫
<56>参考文献 実開 昭54-119417(JP、U) 実公 昭49-39531(JP、Y1)
実公 昭50-28503(JP、Y2)
<57>実用新案登録請求の範囲
表紙部及び背表紙部を有する表紙体と、各々が綴じ付け側縁部間をその厚さ方向に所定の厚紙の厚さ相当の間隔を隔てて配置された複数枚の台紙と、その台紙の各々の上記綴じ付け側縁部近傍において上記間隔を保つように各台紙の相互間に介在すると共に上記複数枚の台紙の綴じ付け側縁部の端面を上記背表紙部の内側に結合している熱溶融性の接着剤とからなる台紙帳。
考案の詳細な説明
この考案は、写真用アルバム、絵はがき用アルバム、切手集収帳、コイン集収帳、あるいはスクラツプブツク等のように、それぞれの用途に応じた台紙を綴じ付けて表紙を設けたもの(以下台紙帳と記す。)に関するものである。
一般にこのような台紙帳は、使用状態において写真や絵はがき等が各種の手段、例えば貼着、台紙に形成されたポケツトに収容することなどの手段により台紙に保持させられて台紙部分の厚みが増大するため、これを考慮して台紙の綴じ込み部分において各台紙間にスペーサとしての厚紙を挾んで綴じ付けることが行われている。例えば、第4図、第5図に示す如くである。第4図の例では、各台紙24の綴じ込み縁部の間に厚紙27を介在させて、これに背表紙23の折込み端縁部23aと、表紙21、22の折返し端縁部21a、22aとを重ね合わせて綴金具26で綴じ付けられている。この構成では台紙24が厚くて折曲げ難いものである場合には開き難い問題があるので、そのような場合には第5図に示すように、折曲げ部に屈撓性のよい比較的薄い紙あるいはフイルム28を用いたものもある。同図において、27は厚紙であり、第4図と同等部分は同一図面符号で示してある。第4図及び第5図に示すような従来の台紙帳は、いずれも使用材料及び部品数が多く、製本作業に多くの手間がかかり、大量生産が困難で、生産コストが非常に高くなる問題があつた。
この考案は、上記従来の問題を解決できる台紙帳を提供することを目的とするものである。この考案の最も大きな特徴は、背表紙内側に台紙群の綴じ付け縁部側端面を接着すると共に各台紙間に必要な間隔をおいた状態で熱溶融性の接着剤により接着してある点にある。すなわち、固化した接着剤が台紙の綴じ付け作用と共に、スペーサとして作用するように構成されているのであり、これによつて格別に綴じ金具やスペーサを必要とせず、製本作業の手間が大幅に簡略化されて、安価な台紙帳を提供できるのである。
特に熱溶融性の接着剤を用いたことにより、接着剤部分が肉の厚い状態となつても固化のためには単に冷却すればよいので簡単に短時間で接着が完了するのであり、さらに固化による体積変化が殆どないために固化した接着剤に確実にスペーサとしての作用を生じさせることができるのであり、従つて工業的にきわめて有利に台紙帳を生産できるのである。
以下この考案を実施例によつてより詳細に説明する。第1の実施例は、この考案の基本的な実施例であり、第1図乃至第3図に示すように、表紙部1、2、背表紙部3、台紙4、接着剤5により構成されている。
表紙部1、2及び背表紙部3は、厚紙を断面がコ字状となるように2個所で折曲げることによつて一つの表紙体に形成されたもので、各部が折曲げ部を介して続いた一連のものである。
台紙4は、この場合8枚使用されており、各々が綴じ付けられる側の縁部間をその厚さ方向に約1mmの間隔を隔てて配置されている。
接着剤5は、熱溶融性のもので、第3図に見られるように、台紙4の各々の綴じ付け側縁部間の間隔を保つと共に、台紙4の各々の綴じ付け側縁部の端面を背表紙部3の内側に結合しているものである。すなわち、台紙4の各々の綴じ付け側縁部の間に1.5~2mmくらい接着剤5が入り込んで前記間隔を保つた状態で台紙4の相互間を接着していると共にその台紙4の各々を背表紙部3の内側に接着結合しているのである。
第2の実施例は、第12図に示すように、略々第1の実施例と同様であるが、寒冷紗14を台紙4の群の綴じ付け側端面と背表紙部3の内側面との間の接着剤5、15中に介在させてある点で相違している。この実施例の構成は寒冷紗14の存在により、綴じ付け部が第1の実施例のものよりも強力である。第3図と同等部分は同一図面符号で示してある。
上記第1及び第2の実施例に示した台紙帳は、固化状態の接着剤5または5と15が、台紙4の各々を背表紙部3の内側へ単に接着しているのみでなく、各々の台紙4間の間隔を保つスペーサとして作用している。従つて、台紙4に写真等を貼着その他の手段により保持させたときの増大を無理なく許容できる。また、実施例の構成は、第4図及び第5図に示した従来の台紙帳のようにスペーサとしての厚紙27や綴金具26を格別に必要とせず、さらに表紙体を表紙21、22、背表紙23に分割形成して綴じ付けのための折返し部21a、22aや折曲げ部23aを設ける必要もない。従つて、従来の台紙帳に較べると、単に構成部品が少い点のみからしても生産コストを相等に低減でき、さらに次に述べる製造方法の1例からも分るように、熱溶融性の接着剤独特の簡単な接着工程を適用できるものであり、これによつて製本されるものであるから、大量生産に適しており、よりいつそう生産コストを低減できる。また、この台紙帳は使用においても、台紙4の綴じ付け部が背表紙に略一致しているので、従来の写真用アルバムに較べると開らき易く、秀れている。
上記実施例の構成の台紙帳は、例えば次のようにして、製本業界で一般に使用されている接着剤塗布機を用いて製本できる。その接着剤塗布機は第6図に概略を示すように、回転ローラ9の下部を加熱溶融した液状の接着剤5に浸漬し、ローラ9の表面に付いて巻上がる接着剤5をドクターブレード10により均一な厚さの層とし、このローラ9の表面に接着剤を塗布しようとする面を接触させるようになつている。表紙体に綴じ付けようとする台紙4の各々には第7図に示すように予めその間隔に等しい厚さ寸法約1mmの厚紙13を挾んで揃えておき、接着する台紙群の綴じ付け側縁部の端面を下にして垂直に、ローラ9上面に沿つて矢印の方向に移動させる。これによつて台紙4の群の綴じ付け側縁部の端面に溶融接着剤5が付着する。溶融接着剤5の付着した台紙4の群をローラ9上より、接着する背表紙3上に移動する間に、各台紙4間の間隔が狭いために生じる毛細管現象や溶融接着剤の表面張力及び自重などにより、第8図に示すような状態となる。この状態では台紙4の群の両端の2枚のものの外側に溶融接着剤5が付着していないのである。このまま台紙4の群を背表紙に接着すると、第9図に示すように接着され、両端の2枚の台紙4は外側に接着剤が付着していないので、少しの引き裂き力で剥がれるものとなる。このため第1の実施例のように両端の2枚の台紙4の綴じ付け部の外側面にも接着剤の付着した構成が望まれるが、これは台紙4のその部分に予め接着剤を付着させたものを用いることによつて製作可能となるのである。また、第2の実施例の場合は寒冷紗14が介在する構成であるが、これは第8図に示したように溶融接着剤5を付着させた後、次に寒冷紗14を圧着して第10図に示すようなものとし、この状態で接着剤5を一旦固化させる。この状態で接着剤5は各台紙4の間に適切に入り込んでいる。そして再度前記と同様に接着剤塗布機のローラ9上を通すと、第11図に示す状態になる。この段階では前回付着した接着剤5と寒冷紗14とが台紙間空隙の端面側を閉蓋した形となつているため、2度目に付着させた溶融接着剤15(接着剤5と同じ材質。)台紙群の両端の2枚の台紙4の外側にも十分に付着すると共に、寒冷紗14の目を通して接着剤5に対して融合した状態となる。従つて第11図の状態のものを背表紙部3の内側に圧着してから接着剤を固化させると、第12図に示した台紙帳が得られる。なお、厚紙13は適当な時点で除去する。
以上のようにこの考案によれば、綴じ金具やスペーサとしての厚紙などを必要とせず、製本作業の手間を大幅に簡略化できて、安価でしかも開き易い点で秀れた台紙帳を提供できる。
図面の簡単な説明
第1図はこの考案の第1の実施例の平面図、第2図は同実施例の正面図、第3図は第2図のA-A断面拡大図、第4図は従来の台紙帳の1例を示す台紙綴じ込み部分の拡大断面図、第5図は第4図のものとは異る従来の台紙帳の台紙綴じ込み部分の拡大断面図、第6図は接着剤塗布機の概略側面図、第7図はこの考案による台紙帳の製造方法の1例を説明するための接着剤塗布時の概略斜視図、第8図乃至第11図は同製造方法を説明するための第2図のA-A断面に相当する部分の各々異る状態を示す断面拡大図、第12図はこの考案の第2の実施例の第2図のA-A断面に相当する断面拡大図である。
1、2……表紙、3……背表紙、4……台紙、5、15……接着剤、14……寒冷紗。
第1図
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第2図
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第3図
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第11図
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第12図
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第6図
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第4図
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第8図
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第5図
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第9図
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第10図
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第7図
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実用新案公報
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